ディレクター金崎 亮太 インタビュー

2025年4月よりスタートする「弁天町ステーションアート」。
LEDビジョンの映像を起点に、アーティストインタビューやVRミュージアムへとつながるプロジェクトである。
2024年の春に企画が立ち上がり、現在に至るまでのプロセスを企画ディレクターであり自身も作品を出品する金崎亮太に話を聞いてみた。

Q. いつもどのような仕事をされていますか?

アートマネージメントという会社で、様々なプロジェクトを進めたり、メディアアート作品を作ったりしています。
直近のプロジェクトを挙げると、AR(拡張現実)を使って観光地の周遊を促進したり、VR(仮想現実)ミュージアムを活用して文化施設のコレクションを展示するような仕事もしています。
今回のVRミュージアムも弊社で開発したシステムが基盤になっているんですよ。
何か成果物を納品するというよりかは、企画から考えて必要なコンテンツを作っていくような感じです。

メディアアート作品はチームでARを活用したデジタルスカルプチャーや、オペラの制作をしています。

そうした仕事では自分自身は技術者っていうよりは、企画やディレクションがメインですね。
個人では電子音響音楽の作品を作ったり、インスタレーションを発表したりも。
あとは、アートを通じて社会課題に向き合うようなプロジェクトにもコーディネーターとして関わっています。
いくつもの仕事を横断しているので、自己紹介が複雑で初対面の人には伝わらないことが多いです。(笑)

Q. 今回の企画のきっかけは?

2024年の春頃にLEDビジョンを納めた会社さんから声をかけていただきました。
既に駅全体のコンセプトが「ステーションアート」と決まっていて、LEDビジョンが設置されるイメージパースを見せていただいたうえで、メディアアート作品を制作して上映するようなコンテンツを企画してほしいというような内容だったと記憶しています。

まずはアートをテーマにした駅ができることが良いなと思いました。
しかも映像系のメディアアート作品を発信できる駅ですからね。
ここまで振りきった駅って他にない気がします。

主要駅がどんどんリニューアルしていることは知っていましたし、大阪・関西万博の会場へのアクセス駅にもなるので、声をかけてもらったこと自体が光栄でした。
万博会場のパビリオンよりも作品を見てもらえそうですしね。(笑)

Q. すぐに企画は思いつきましたか?

そうですね、割とすぐに企画の概要は頭の中に浮かんでいましたね。

まず、映像コンテンツの企画提案を始めるなかで、どういった仕掛けをするとホームにいる方々に届くのかということを考えたんですよね。
というのも、綺麗な映像を作って上映しても、すぐに風景というか、壁の一部になってしまうんじゃないかと。
商業施設とかでも空間演出みたいな綺麗な映像って、なぜか印象に残らないじゃないですか。
例えば、ここに来るまでの道中の映像って何か記憶にありますかって話ですよ。

あと、最近はスマホで映像を見ることって増えてますけど、それってただ映像コンテンツだけを抜き出して消費しているだけで、鑑賞体験ではないんですよね。
スマホと目が直結していて、間に何も介在しないっていう状態が。
もちろん僕もスマホとかで見たりしますけど、映画館で映画を見ると、景色や匂い、周囲の会話、雑音などが混じるので、それで初めて「体験」してるといえるんじゃないですかね。
そうした良い意味での雑味みたいなものがあると、「体験」になって身体で感じて記憶にも残るというか。

なので、「視聴」から「体験」になるにはどうしたら良いのかを考えました。
だから、LEDビジョンに綺麗な映像を流すだけというのはやめようと最初に決めました。

そう決めたらすぐに「アーティストたちと接点を持てるLEDビジョンにしよう」と浮かんできたんですよね。
ビジネスのことだけを考えたら、うちのチームで映像作品を制作していくのが一番良いんですけどね。(笑)

それよりも、ここで偶然映像を見かけた方がアーティストを知ったりすることの方がよっぽど「鑑賞体験」になる気がしたんですよね。
そしたら「大阪メトロに乗って展覧会とか見に行けたらいいし、大阪や関西圏のアーティストと繋がれる場がいいな。」ってなって。
さらにメディアアート系のアーティストの映像作品だけじゃなくて、美術作家のコンセプトムービーとかもあれば面白いなあと。

各LEDビジョンの右端にキャプションを用意しているんですけど、これこそ「作品です」と象徴しているものだと思ってます。
全面映像でも面白いんですけど、このキャプションがあることで通りすがりの人が「綺麗な映像」から「映像作品」に意識化されるような気がしています。
知らんけど。(笑)

一部をキャプションにすることで、そこからインタビュー記事や動画、VRミュージアムにアクセスできるようにしようと企画が発展していきました。
弁天町駅のLEDビジョンで終わるのではなく、その奥があるというか、入り口になるようなイメージですね。

その頃に第一弾作家でもある岡本啓さんと展覧会の準備をしていたので、すぐにアイディアを伝えたら「さすがっすね!」と言ってもらえたんで、なんか自信になりましたよ。(笑)

大阪メトロさんにも「大阪に縁のあるアーティストとの出会いの場を創出します」ってプレゼンしました。
コンテンツの提案がくると思ったらプロジェクトの提案がきたので、初めは戸惑われたかもしれませんが、それでも企画というか考えてることを尊重してもらっているような印象を受けました。
初めは片側のホームに設置している5面のLEDビジョンのうち4面を映像作品、1面をキャプションで考えていたのですけども、「そういったコンセプトなら全てのLEDビジョンにキャプションをつけた方がいいのでは」と反対に提案くださったんですよね。
アーティストとの接点も大切にするために、現在の形になっています。
お陰様で、ここまで紆余曲折なく、スムーズに上映開始まで迎えられています。


Q. 初めて見た時の印象は?

初めて全面的に映像が上映された時はけっこう感動しましたよ。
プロジェクターとかと違ってモノ自体が発光しているし、パソコンとか作業モニターと違ってでかいし。
それも終電後に見せてもらったので、作業員の方々くらいしかいなくて贅沢な時間でしたね。

以前、美術館でインターンをしていたことがあったんですけど、閉館後とかに展示室にいけたんですよ。
昼間はめっちゃ混んでる展覧会でも独り占めするような感じで、そういった感覚に近かったです。
おすすめは終電間際くらいに来てもらって、人が少ないときに鑑賞してもらうことですね。

立ち上げの時って何度体験しても感動が変わらないというか、この感動を味わうために企画してるところはあるかもしれないです。

駅のホームも、LEDビジョンも、なんならアートもどこにでもあるもんだけど、それらが組み合わさるとちょっと良い意味での違和感になるなと思いました。
なんかその違和感の原因みたいなものを探してもらうと、アーティストに辿り着くってなるのが理想かもしれませんね

鑑賞したり、二次元コードを読み取ったりしてる人を眺めて「僕が企画したんやで」って心の中で喜ぶのが楽しみです。(笑)

Q. 今後の展望は?

まずはこの場所からたくさんのアート作品とアーティストを紹介していきたいですね。
年内のアーティストは決まっていて、みなさん素晴らしいアーティストばかりです。

この場所を通じて色々なアート作品やアーティストに触れてほしいですし、興味を持ってもらえたら美術館や芸術祭にも足を運んでみてほしいですね。

ギャラリーは、、、ちょっとハードルが高いかな。(笑)
それでも、ここで知ってもらったアーティストたちはどこかしらで展覧会とかをやっていると思うので、観に行ってもらいたいです。
田中くんも、麦さんも、岡本さんも、リアルな作品もほんとうに素晴らしいし、惹き込まれますよきっと。

このプロジェクト自体の話にすると、けっこう伸縮性というか拡張性があると思っているんですよね。
例えば、他のLEDビジョンやサイネージとも連動できますよね?

夢洲駅とか?

いいですね。
ホームだと危ないかもしれないけど、改札口ならARとかも考えられるし。
音も再生できますしね。

「線路は続くよどこまでも」ならぬ、「プロジェクトは続くよどこまでも」で。

先々のことは意識しつつも、まずはこの「弁天町ステーションアート」を多くの方々に楽しんでもらいたいです。

金崎 亮太 Ryota Kanasaki

株式会社アートマネージメント代表
電子音響音楽家
大阪公立大学都市経営研究科特任准教授

1984年大阪生まれ
大阪芸術大学芸術学部音楽学科音楽工学コース卒業
大阪公立大学大学院都市経営研究科修了

株式会社リクルート、株式会社阪急阪神百貨店での勤務を経て独立
『有馬アートナイト〜質量からの旅の追憶〜』、『ARオペラ-TECHNOPERA-』、『アート&サイエンスフェスティバル』、『弁天町ステーションアート』など、現代芸術と先端テクノロジーの接続による表現を、アーティスト、ディレクターとして手がけている。