ムービークリエイターとして、音楽アーティストのライブ映像演出やミュージックビデオを手掛けている、弁天町ステーションアート第5弾アーティストの前田和洋。弁天町駅のホームでは、長年温めてきたモチーフである龍の映像を発表する。その制作過程や映像作りへの想いを聞いた。
龍のモデリング作業を行う前田 和洋(撮影:井川茉代)
Q. VJを選んだのは、映像に興味があったからですか。
一人で始められることを探した結果です。高校生の時にバンドを組んでいて、ベースをやっていたのですが、ベース一人では何もできない。バンドの仲間をみつけるにはある程度実力を認められなあかんし、認められるにはなんかやらなあかんし、なんかやるには仲間がいるし…という悪循環があって、一人でできることを探そうと思い立ちました。
最初はDJもいいなと思ったのですが、人口が少ないVJの方が活躍できる隙間が多いこととVJで技術を培った方が後々仕事に繋がりそうだとぼんやりと思っていました。本当にその通りになりましたね。 ただ、基本がおろそかなまま、20年ぐらい我流でやってきてしまいました。そのことを長くコンプレックスに感じていたので、もう一度勉強し直そうと思い、今年からオンラインの大学に通っています。
Q. どちらの大学ですか。
ZEN大学の知能情報社会学科です。ウェブプログラミング、プロジェクトマネジメント、物理学、経済学、心理学などを履修しています。
大学生でありながら、今年度から学校の先生もやらせてもらっています。Osaka School of Musicという専門学校の舞台芸術テクノロジー学科でUnreal Engineを教えています。
Q. ムービークリエイターはVJからキャリアをスタートする方が多いのでしょうか。
僕の周りでは現役VJや元VJの人が多いですね。当時は入り口がVJしかなかったんです。最近になって、初めからムービークリエイターを目指して勉強する人が現れ出しました。
Q. VJの皆さんは、必ず映像素材を自作されるものなのですか。
販売されている素材や映画のワンシーンをサンプリングする人もいますが、一本ぐらいは自分でオリジナル映像を作る人が多いんじゃないでしょうか。
Q. VJには即興性が求められますよね。
博打のようなものですよ(笑)。Resolume ArenaというVJソフトを使って、自分で作った映像や好きな映像の一部を切り取ったサンプリング素材を大量に用意し、「こんな曲来たか!」と音楽に反応しながら、「じゃあ、次にビートが変わった時は、これでいこう」と次のネタを用意して、エフェクトをかけて入れる。それが綺麗にハマったら、ちゃんとフロアが湧くんです。決まった時はもうたまんなく快感ですね。
Q. その経験は現在の映像作りに活かされていますか。
多大に活きています。こういう音にはこういう素材がハマるというのを千夜は実験してきたので、ノウハウはたくさん溜まっています。
例えばノイズ素材のように展開が早い映像には、ハイハット(シンバル)の音を綺麗にはめたら合う。ドライブ感のあるカメラワークの素材にはグルーヴ感のある四つ打ちが合う。ざっくりとそんな感じですね。ライブ演出では、全ての場面にその法則を当てはめていくと鬱陶しくなるので、曲中のここぞというところを狙って使っていきます。
Q. どんなふうに歳をとらせるのですか。
長く生きているので肌に傷や皺があったり、まつ毛はボサボサ、しゃくれていて目の周りがゴツゴツしている。そういうことを加えていくと老けていきます。
ジジイ感を出したいんですよね。僕は“かっこいいジジイ”が好きなんですよ。自分もそうなりたい。SEKIROという高難度アクションゲームのラスボス・葦名一心のような龍が描きたいと思いながら作っていきました。
龍のモデリング作業を行う前田和洋(撮影:井川茉代)
Q. 一体の龍をモデリングするのに、どのぐらいの時間がかかりましたか。
龍の形状を描くのに2~3日ぐらいですね。1体目は効率のいい鱗の描き方をテストしながら作ったので、2体目以降は時間が短縮できました。
その後、質感をレンダリング(コンピューター上で作成した3Dモデルに質感などの計算を加え、人間が見てわかる2Dの映像や画像に変換する処理)するのに24時間かかりました。 それから、骨組みを入れて、走っていくコースを設定。追従してくれるカメラワークをつけて、このカメラワークならこの辺に雲を配置しよう、といった手順で作業を進めていきました。
Q. 体の龍が泳いでいますね。
陰陽五行の考え方が好きで、いつか金水土火金の五つの属性の龍を作りたいなと思っていました。『龍景』には、黄龍と土龍と木龍が登場します。一体目に制作したのは黄龍です。龍の造形は自然物から着想を得ているところが多く、木龍の角は木の枝の形を取り入れています。
Q. 東洋思想に興味がおありなのですか。
中二病です(笑)。中国の八卦鏡や日本の飛鳥村の遺跡から出てきた四聖獣(朱雀白虎青龍玄武)も好きです。いつか四聖獣も作りたいなと思っています。そういう幻獣ものが好きですね。中でもやっぱり龍はいいなと子どもの頃からずっと思っています。幼い頃は、ドラゴンボールの神龍の絵を描いていましたね。悟空よりも、神龍をよく描いていました。
Q. 龍の伝説は世界中にありますよね。
恐竜の化石を見つけて「なんだこの骨は!」と思ったところから想像されたのが始まりでしょうか。実際にいたんじゃないの?という捉え方もできます。
雲の形や水の流れといった自然現象を龍に例える水龍伝説などもすごく好きです。僕は「神様が人の形してるわけないでしょ!」と思っていて、神様ってこんな感じなんじゃないかな、という勝手な龍神信仰心があります。
Q. 本当に、龍がお好きなのですね。
龍にこだわるようになったのは色々な人の影響がありますが、中でもVJをしている時に出会ったバティック作家のミカさんの龍には衝撃を受けました。
ミカさんはクラブなどのレイブシーンでDJの後ろに立てるためのバティックという布に龍の絵ばかりを描いていた方です。華奢な女性なのですが、むちゃくちゃゴツいマッチョな龍を描くんです。バティックは蓄光塗料を使って描いているのでブラックライトに反応して光り、風でブワーっと揺れます。龍が生き生きして見えてとても感動し、自分も描いてみたいと思うようになりました。
ミカさんは今どこで何をしているんだろう。僕はミカさんの龍をまだ超えられていません。超えられるとすれば、動画であるということぐらいですね。
Q. これまでにも龍の映像作品を作る機会はありましたか。
10年程前にポリゴンモデリングで作ったVJ素材が長いこと好評でした。とっておきのネタで、VJでここぞという時に使っていました。
2年前の辰年にモデリングして龍を作るという目標があったのですが、実現することができず、今回ようやく自分の龍と言えるものができました。
Bambu Lab(バンブーラボ)の3Dプリンターを手に入れたのも大きいです。一生懸命モデリングしているのに、画面の中にしか存在しないことが悲しくなる時があるんですよね。だから、実際にプリントして手に取れるようになったのがすごく嬉しくて、モデリングするモチベーションが格段に上がりました。
いずれは、お寺や神社に納品するという夢もあります。近所の神社によく足を運ぶのですが、手水所に僕の龍があったらかっこいいなと思っています。
3Dプリンターでプリントされた龍(撮影:前田和洋)
Q. 龍のモチーフは、これからも追及し甲斐がありそうですね。
今回の龍に関しては、本当に好き勝手やらせてもらいました。いつか、クライアントワークで演出家さんに「お前の龍飛ばしてくれや」と言ってもらえる日が来ないかなと思っています。
龍は空想上の生き物なので、デザインし放題。とはいえ、ある程度フォーマットは決まっています。今はまだ既存のフォーマットの龍でしかないので、いつの日か龍のイメージを一新するぐらいのデザインができたらいいですね。
Q. 駅のホームでの投影にあたって意識したことはありますか。
電車に乗って移動しながら見ることになるので、龍と電車が並走しているような見え方にしています。それから、弁天町駅に“龍神様のご加護あれ”という、祈りとも呪いとも取れるような気持ちを込めてモデリングしました。
Q. どんな曲ですか。
Ellen AllienのZAUBERです。昔から好きなスローな曲で、この曲を聴きながらのんびりと龍にモーションをつけていました。Ellen Allienはジャンルとしてはテクノですが、ZAUBERは聴いていると温泉に入っているような気持ちになる、ほっこりする曲です。
Q. この曲を脳内再生しながら映像を見るのもいいですね。普段から音楽は良くお聞きになりますか。
気分転換で音楽を流しながら制作することもあります。色んな音楽を聴きますが、作業がはかどるのは歌詞のないインストゥルメンタルの曲かな。クラシックや久石譲、坂本龍一も好きです。後はゲームミュージックのジャンルでFINAL FANTASYの作曲者・植松伸夫。
僕、ゲーマーなんですよ。ゲーマーであり、ずっと治す気のない中二病です(笑)。中二病のまま生きさせてもらってありがたい限りですね。
Q. どんなゲームがお好きですか。
高難度アクションRPGです。気晴らしはゲームを攻略すること。新しい武器を手に入れたり、どうやって戦うか考えるのが好きですね。いつかゲームに僕の龍がボスキャラとして登場したらこんなに嬉しいことないなと思います。
Q. ゲームのキャラクターを作る未来が訪れるかもしれませんね。
いまだに諦めていません。どこかで食い込めたらいいなと思っています。ゲームメーカーさん、ぜひお願いします(笑)