金崎 亮太 インタビュー

弁天町ステーションアートのディレクターを務めながら、自らも作品を発表する金崎亮太。電子音響音楽家としての活動を軸に、近年は映像やARを取り入れたメディアアート作品の制作にも取り組んでいる。しかし、あくまで映像作家やメディアアーティストではないと言い切るその姿勢や、電子音響音楽を作り始めた経緯を聞いてみた。

Q. いつも何と名乗っていますか?

名刺には「アートマネージメント代表取締役」と「電子音響音楽家」って書いてます。アーティストとして自己紹介するときは「電子音響音楽家」って言ってますね。

ちょっと聞き慣れない言葉かもしれないですけど、「音楽家」とも「電子音楽家」ともちょっと違って、「音響、つまり音の響き」をメインに音楽作品を作ってる、って感じなんです。

これは僕が作った造語ってわけじゃなくて、実はちゃんと「電子音響音楽」というジャンルがあるんですよ。音響機器(オーディオ機器)を使って録音した音とかを加工・編集して新しい音を作り出していく音楽ですね。例えば、身の回りの環境音とかを録って、それを加工して音楽作品に仕上げるイメージです。

二重の意味もあって、「電子音響音楽家」。

少し前に亡くなりましたけど、坂本龍一さんって映画音楽を作る一方で、時々すごく不思議な音楽も作ってたじゃないですか? あんな感じの音楽を作ってますって言うと、「あーなるほど」って伝わることが多いです(笑)。

自分としては、「音」を作ってるというよりは「音が響く空間」を作ってる感覚が強くて、だからほとんど音源リリースとかしてこなかったんですよね。

他には、「サウンドアーティスト」って言われることもあります。多分、音楽よりももっと広く音そのものを扱ってる感じだからかなと思います。

Q. 今回は映像作品ですが、映像作家やメディアアーティストではない?

そうですね、あくまで電子音響音楽家です。映像作品を作りたいってわけではなくて、自分が電子音響音楽に対して持っている考え方とかを映像として可視化した、っていう位置づけなんです。

例えば、考えを言語化したからといって「詩人」や「言葉の作家」になるわけではないじゃないですか。ちょうどそんな感じの感覚ですね。

AR(拡張現実)を使ったり、インタラクティブなこともやるんで「メディアアーティスト」って言われてもおかしくはないんですけど、やっぱり作品作りの出発点を考えると電子音響音楽家なんです。

「デンシオンキョウオンガク」って言葉の響きも好きなんですよね。

Q. 制作や発表はどのようにしているんですか?

今回は一人での名義ですけど、普段は作品制作が一人じゃなくて、作曲家の三木祐子さんとピアノと電子音響の作品を作ってます。
まず三木さんがピアノや歌声を録音して、それを僕がパソコンで音響処理していきます。

例えば、三木さんがピアノで「ド」と鳴らしたら、僕がそれをリアルタイムに拾って「ミ・ソ」に変換して出力する。そしたら音の空間には「ド・ミ・ソ」が広がって、その上にさらに三木さんが「ファ・ラ・ド」を重ねれば「ド・ミ・ソ・ファ・ラ・ド」と響く空間が生まれる……みたいな感じです。

そのほかにも歌声とか、会話みたいな「声」を加工してノイズっぽい音を作ることもあります。演奏会では、それらをリアルタイムにやってる感じですね。

あっ、そうそう、実は三木さんとは年に1~2回くらいしか会わないんです。(笑)録音のときとか、演奏会のタイミングくらいで。同い年なんですけど、お互い敬語なんですよね。

三木さんが弾くピアノや歌声に対して僕は何も注文しないし、こっちの音響処理に対して三木さんも特にリクエストしない。でも、ちゃんと作品はできあがるし、お互い納得してますね。

ユニット名もなくて、「三木 祐子 + 金崎 亮太」としてやってます。名前を付けようか、とかいう話題になったこともないんですよ。

Q. 三木さんと作るようになったのは?

もともとは、三木さんが出演していた演奏会の案内をもらって聴きに行って、一目惚れして声をかけたのがきっかけです。当時通われていた大学院の発表会か何かで、ピアノを叩き出したりしていて。(笑)そのとき指導教員がウェーベルンあたりを研究してる方だと知って、「あ、価値観近いかも」って思いました。

ウェーベルンはシェーンベルクなんかと並んで前衛音楽の先駆けみたいな存在で。ほら、若い時って「前衛」という響きに憧れがあるじゃないですか。(笑)
それで誘って、2012年に「根底の響きを探って」という演奏会を開催したのが最初でしたね。演奏会ではリアルタイムの録音や加工処理を試してみたんです。

Q. 発表は音源をリリースしないとおっしゃってましたよね?

そうなんです。基本は演奏会やインスタレーションを中心に発表してます。自分のチームと連携して、ARと組み合わせて芸術祭に出したりもします。
演奏会は近年は子供向けの「絵本音楽会」ってのをやってます。

空間を作りたいという思いが強いので、実はあんまり音源という形でリリースしてこなかったんですけど、1年くらい前に1曲だけデジタルリリースしてみたんですよ。ちょうど岡本啓さんとの展覧会があって、その空間を作るために使っていた音を再編集して、17分くらいの曲としてまとめました。

もともとPiano Variationってシリーズだったので、そのバリエーションの一つとして音源をリリースするのもいいかなと思って。
いっぽうで1点もののレコードも発表しました。
購入してくれた方だけのためにPiano Variationを1曲作ってカッティングしてお渡し。


Q. コンセプトやテーマはあるんですか?

そうですね。「ヒトが音楽を見つけた時って、どんな響きがあったんだろう?」ということを考えながら作っているんです。最初の演奏会のタイトルが「根底の響きを探って」で、まさにこういう素朴な疑問から僕らなりの技法や解釈でアプローチしています。

あくまで再現や復元ではなく、もっと「音楽に対する根源的な欲求」を探究したいんです。きっと洞窟の中で偶然鳴った音を「なんかいい響きだね」って感じたところから、音楽が始まったのかなってイメージしていて。

実際、洞窟壁画が残っているような場所で音を鳴らすと、3度や5度の倍音成分が響くことがあるらしくて、いわば「ド・ミ・ソ」のような心地よい響きが返ってくる。そこに集まって声を出したり儀式を行ったりしながら絵も描いたんじゃないか、という研究もあるみたいです。

ピアノって弦をハンマーで叩く楽器なんで、本質的には打楽器に近いところがあるんですよね。原初の音楽って、たぶん石とか壁とか鍾乳石みたいなものを叩くところから始まったはずだし、そこに声も加わって音楽になっていった。僕らがピアノと声をメインで扱うのは、そういう原初の音へのアプローチに近いものがあるんです。

もう一つ、構造的な話をすると、音楽的には「反復と差異」、つまりリズムとメロディが基本構造になっていますよね。そこに第三の要素である「持続」、僕らはそれを「響き」と呼んでいるんですが、それをコントロールすることで空間的なハーモニーを作り出そうとしてるんです。リズム、メロディ、そして響きの三要素によって空間にハーモニーを生むイメージですね。

言ってしまえば当たり前の話なんだけど、その「響き」の部分にあえて焦点を当てることで、原初の音の感覚みたいなものに少しでも近づきたいなって思っています。

余談ですけど、数年前にホールでピアノを録音したとき、調律の様子も録らせてもらったんです。それがめちゃくちゃ面白くて。調律師さんが「調律が録音されるのは初めてかもしれない」って言ってましたけど、その作業音を聞いてると「音が見つかっていく」感じがするというか、僕らが思い描いてる「ヒトが音楽を見つけた瞬間」に通じるものを感じたんですよね。

その調律師さんが「僕らはホールに合わせて遊びや余白を残してるんです。それを僕は“響き”と呼んでます」って言っていて、第三者の言葉で自分たちの考えに近いことを聞けたのが何だか嬉しかったです。

Q. では、なぜ映像を?

昔からずっと、自分たちのコンセプトや構造って映像でも表現できるんじゃないかなって思ってたんですよ。

実は何年か前に一度だけ、「音景(おんけい)」っていう映像作品を作ったことがあって。これは、定点カメラで撮った景色の音をオノマトペ(擬声語)に置き換えて情景として見せるっていう、実験的な作品だったんです。

その続編みたいな形で、「波形」をテーマにした作品を作ろうと思って、いろんな波の映像をずっと撮りためてたんですけど、なんかイマイチしっくりこなくて。

音楽制作の延長線上にはあるとはいえ、映像ならではのアプローチもしてみたいなと思ってたんですけど、なかなかうまく形にできずにいたんですね。
でも、Open AIが「SORA」(※動画生成AI)を発表したときに、「あ、これだ!」って思ったんです。足りなかったピースがハマるような感覚があって。
要するに、現実の映像だけで作品を作るんじゃなくて、そこに仮想的な景色も重ねて、それが一つの情景になるように編集や加工をする。

こういう発想が、自分の中では電子音響音楽っぽいアプローチとつながるなって感じたんです。

今回の「波景 - Wave Scape」では、実写やアニメーション、3DCG、そして生成AIを活用してます。
無限に生成される自然現象を“リアル”として仮置きすると、アニメーションや3DCGによる自然現象は物理演算こそされてるけど、同じ波が繰り返されるって意味では不自然な“シミュレーション”や"バーチャル"でもある。
一方で、生成AIの映像は物理演算すら無視した、ただの“波っぽい映像”なんだけど、規則正しい繰り返しはなくてその辺りはリアルに近い。

もしかしたら近い将来、というか、もうすでにかもしれないけど、僕らはこういうリアルとシミュレーションやバーチャル、それに生成AIが生み出した景色をいちいち分けて認識することが難しくなって、全部ひっくるめた“波”みたいな概念として受け止めるんじゃないかなと思うんです。
そうやって重ね合わせることで、“波の姿をしてるけど波じゃない想像”が生まれてる気がするんですよ。

ただ、芸術の世界ではもうリアルとバーチャルの交錯なんて当たり前にあって、たとえば葛飾北斎の波だって、モネの睡蓮に映る水面だって、物理シミュレーション的には正しいわけじゃない。
それでも僕らは美しいと感じたりするじゃないですか。
要は僕らはそういう正しさとかどうでもよくて、自然的な正しさがイコール美しさってわけじゃないんだと思うんですよね。

そうしたものを全部ひっくるめての、一つの"情景"が立ち上がるはずなんです。

それが自分にとっては、電子音響音楽のアプローチとも一致してて。「音楽を扱いながら、音楽じゃないものを作りたい」というか、「音楽と認識されていない状態」にある“原初の音楽の姿っていう名の想像”を空間に立ち上げる、情景を立ち上げるみたいなことがやりたいんです。

そうした考えから映像作品でも自分たちの考えが形になるのではないかなと思って、着手してみました。

Q. そもそも、なぜ電子音響音楽を? 芸大で学ばれたんですか?

あー、高校時代はバンドをやっていたんですよね。当時はバンドブームでしたし、単純に「モテたい」くらいのノリでした。

普通に考えると、芸大にでも行かないとなかなかこういう音楽には出会わないですよね。僕の場合、進学時にレコーディングエンジニアになりたいなと思って音楽系の専門学校を目指そうとしてたんです。でも母親から「お父さんは大学に行ってほしいらしいから、芸大はどう?」みたいな謎の折衷案(?)を提案されて、資料請求してみたらカリキュラムの中にレコーディング演習があったんですよ。じゃあ受験してダメなら専門学校にしようって感じで、軽い気持ちで受けたら受かりまして。

入学してみたら週に2コマくらいしかレコーディング演習がなくて、テープを切り貼りしてみたり、演奏学科のオーケストラを録音したりは面白かったんですけど、想像していたよりも量が少なくて。家から大学まで2時間近くかかったので軽音サークルにも入らず、レコーディングエンジニアを目指す気持ちもだんだん薄れていった感じです。

そんな中、3回生くらいでコンピューター音楽、いわゆる「ミュージック・コンクレート」(電子音響音楽とほぼ同義)に出会って、これがすごく面白かった。キャンパス内でいろんな音を録ってきてはエフェクトをかけたり編集したり……そういう作業がハマったんですよね。石を投げて「ぽちゃーん」て音を録ったり、スリッパを壁にこすったり、いろんな音素材を組み合わせて重ねてみるのがめちゃくちゃ楽しくて。

卒業制作では初めてMacを買って、Logic(音楽制作ソフト)を入れて。フィールドレコーディング用の機材がなかったので、とりあえず自分の声を録音していろいろいじりながら操作を覚えていったんです。ちょうどBjork(ビョーク)の「Medulla(メダラ)」って声だけで作られたアルバムがリリースされていて、ああいうアプローチに影響を受けたところもあります。声って倍音成分が豊富だし、それをノイズっぽく加工して「音」として扱うと、言葉の意味が剝がれていく感じもあって面白かったんですよね。

そこからは、声をメインの音素材としてずっといろんな作品を作るようになったんです。
歌声もだし、会話とか。

Q. そこからアーティストを目指した?

いや、アーティスト志望ってわけでもなくて、実は就職活動してアパレル商社に内定ももらってたんです。バイヤーとか自社ブランドの商品企画の仕事をやるらしくて、それはそれで面白そうだなと思ってました。

でも卒業前に「研究生として大学に残ってみるか」って話があって、人事担当の方に相談したら「そっちに行った方がいいんじゃない?」って言われて内定がなくなっちゃったんですよね。(笑)名古屋本社の全国展開してる会社だったし、両立は難しかったとは思いますけど。

そんな感じで将来の道がなくなっちゃって、「どうしようかな……でも作品制作は続けたいな」くらいの状態で卒業しました。

そこからはライブとかをやるようになって、三木さんと出会って、、、って感じです。

少し話は脱線しますけど、大学を卒業して10年後には百貨店で催事企画とかやってました。
人生は何があるかわからないです。
その期間、2015年〜2020年くらいまで活動が空白なんですよね。
催事って文化を作ってる感覚もあって、仕事が楽しくて。(笑)

だから芸術とか文化には関わりたいけど、必ずしも現代アートでないとダメってわけでもないし、今回の弁天町のように他の方々と一つのプロジェクトを作るのも好きです。

※金崎は弁天町ステーションアートのディレクターでもある。


Q. 今後の展望は?

作品を作り続けてきた結果、さっき話したような考え方が出てきましたし、これからも新しい考えがどんどん浮かんでくるんじゃないかと思います。
それが音であったり、映像であったり、ARやVRかもしれない。
生成AIとのセッションや、ARやVRでしか体験できないサウンドインスタレーションとかも考えています。

ざっくり言えば、電子音響音楽家として世界を捉える習慣ができたのかなあ、と。なんか「新しい音の景色が見たい」という気持ちでやってるだけなんですよ。それくらいですかねえ。



ムービー

小見出し

ここをクリックして表示したいテキストを入力してください。テキストは「右寄せ」「中央寄せ」「左寄せ」といった整列方向、「太字」「斜体」「下線」「取り消し線」、「文字サイズ」「文字色」「文字の背景色」など細かく編集することができます。

金崎 亮太 Ryota Kanasaki 

1984年 大阪生まれ
2006年 大阪芸術大学芸術学部音楽学科音楽工学コース卒業

[演奏会/舞台]
2008年 「Audio Visual Concert”非音楽 内外 過現未”」兵庫県立美術館 / 兵庫
2009年 「Audio Visual Concert”或る”」兵庫県立美術館 / 兵庫
2012年 「Piano×Computer Electro Acoustic Concert "根底の響きを探って"」京都芸術センター / 京都 w / 三木祐子:ピアノ (2013 / 2014)
2012年 「響〜ピアノと電子音響音楽のハーモニー〜」Eiホール(和泉市久保惣記念美術館) w / 三木祐子:ピアノ
2012年 「三-SAN- 脈動する命 Pulsing the life」伊丹アイ・ホール (舞台音響音楽担当) w / 祝丸:和太鼓 / ヤン・ベッカー:演出、照明
2014年 「景色・描く・奏~茨木音風景~ HUB-IBARAKI ART COMPETITION 関連企画」きらめきホール / 大阪  w / 三木祐子:ピアノ / 中島麦:ペインティング
2022年 「絵本音楽会」ローズWAMホール / 大阪 w / 三木祐子:ピアノ (2024)


[個展]
2015年 「archive/resonance」GLAN FABRIQUE ギャラリー”la galerie” / 大阪
2021年 「ARオペラ-TECHNOPERA-」神戸メリケンパーク / 兵庫
2021年 「音景」大阪府茨木市文化施設各所 / 大阪

【グループ展】
2010年 「Tasting Art Exhibition」阪急メンズ大阪 / 大阪 (2011/2012/2014)
2014年 「アートフェア東京」東京
2014年 「まよわないために」The Tree Konohana / 大阪
2015年 「Erosion/Transfiguration-侵蝕と変容の先の関係性へ」瑞雲庵 / 京都
2022年 「六甲ミーツアート芸術散歩2022」六甲山 / 兵庫
2024年 「アート& サイエンスフェスティバル大阪万博展覧会」万博記念公園 / 大阪
2024年 「波のつげさき」SAKAINOMA 旧武石商店 / 大阪